フィギュアスケート・世界選手権の生観戦レポートの
続きです。
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《前編》(女子ショートプログラム等)はこちら。
■ フリー (3/24):
○ 公式練習:
公式練習は最初から最後まで全部観た。思ったより客席は空いていた。公式練習は初めて観たのだが、選手ごとに調整方法が違っていて面白い。安藤は4回転、中野は3Aを決めて、調子良さそうだった。浅田真央はミスが多く、ちょっと心配。シズニー、キーラ・コルピなどは近くで見ると綺麗。
○ はじめに:
フリーは、当然最初から24人全員観戦。下記の主力以外では、ポイキオ、ロシェットがいい演技だった。マイアーは、ジャンプのミスが惜しかった。
○ 中野友加里:
練習で調子良さそうだったので、3Aにも挑戦するだろうという気配はあったし、挑戦したのだが、回転不足気味で転倒。その後スピンでもミスがあったが、何とか無難にまとめてくれた。第3グループ終了時点でトップ。順位が上がるだろうと期待できたが、得点的にメダルは厳しい。
○ カロリーナ・コストナー:
音楽「SAYURI」・衣装・髪型は日本を意識したものだっただけに、いい演技をすれば観客も盛り上がっただろうに、残念ながら最初のジャンプの転倒が後まで響いて、全体的にジャンプが乱れた。ただ、スパイラルのスピードは素晴らしかった。おそらく世界一だろう。総合得点が中野と同点だったので、気付いた観客が少しざわめいた。(最終順位は、フリーが上位の中野が上)
○ エミリー・ヒューズ:
昨日のSPはいい演技で、何とか最終グループに入れたので、フリーでも期待できるかと思った。2つめのジャンプ(3F)の転倒が痛かったが、後半はうまくまとめた印象。でもその割には得点が伸びなかった(後で調べたら、後半の3Lzと3Fが回転不足と判定されてた)。客席も重い雰囲気に。
○ キム・ヨナ:
冒頭の3F+3Tと次のイナバウアーからの2A+3Tを完璧に決めたときは、昨日のSPの再現かと思った。
この時点では、キム・ユナが優勝しそうだなーと思ったほどだった。それだけに、後半で2度の転倒があったのは驚いた。試合としては面白くなると思ったが、腰痛の影響か、そのための練習不足の影響かと思うと、気の毒だった。やはり得点は低かったが、得点が出るまで異様に時間がかかった(後で調べたら、転倒の影響で3Lzの単発が2つになってしまい、その一方はSEQ扱いになるため、後で跳んだ3S+2Tは4つ目のCOMBO/SEQ(制限オーバー)となり、ノーカウント。この判定に時間がかかった模様)。
○ 浅田真央:
直前のキム・ヨナの得点が出るのに通常の倍くらい時間がかかり、客席からは急かすような手拍子もあった。またSP5位スタートという前例のないパターンだったため、
もう演技直前は何が起こるか分からないような緊張感があった。最悪の場合、大崩れしてジュニアデビュー以降初の表彰台落ち、最高の場合、PB更新で逆転優勝、どちらもありうると思った。
冒頭の3Aは完璧に見えた。私も今日一番の大きな拍手をした。2A+3T(2T判定)は着氷が乱れたが、次の3F+3Loは、昨日の失敗を繰り返さず成功。そこからは、観客全体が緊張から解放されたように雰囲気が変わり、歓声・拍手・手拍子が大音響に。今までのフィギュアスケートの観戦で経験したことのない盛り上がりだった。ステップや中盤の振付を変えたのは正解だろう。全体的にメリハリのある演技構成になった。音楽にもぴったり合わせていた。「チャルダッシュ」は今季初めは未完成のプログラムだと思ったが、ここに来て完成した。最後の3連続ジャンプは、私の席の近くだったので、ガッツポーズと表情もよく見えた。終始、浅田真央の、
勝ちたい、良い演技をしたい、という気迫が、スタンド席1階中段まで伝わってきた。
演技終了と同時に、泣きそうになりながらスタオベした。普通「観客総立ち」と言っても実際は半分しか立ってなかったり、周囲の人が立ったから自分も立つ、というのが多いのだが、このときは演技終了と同時に全員が立ち上がる本物のスタオベだった。大型モニタで3Aの映像が再生されたとき、両足着氷気味だったので、点数は思ったほど出ないかも…と思った。実際、TES 69.64は、NHK杯や全日本より低い。それでも133.13は国際大会女子フリーの歴代最高スコア。合計194.45はPBに遠く及ばないものの、この時点で1位。優勝の可能性が出てきた。
(後で調べたら、ステップからの3Aは、決まればGOEで +2程度取れるはずが、両足着氷を厳しくとるジャッジが多くGOE -1で、3点の損。2A+3T は、3Tが回転不足で2T判定のうえ両足着氷でGOEも大幅減で、約4点の損。この2つのジャンプで7点落とした。結局、ジャンプだけで SP8点、FS7点、計15点のロスがあり、
前記の210点より約15点減で194.45点という計算になる。)
○ キミー・マイズナー:
浅田真央の演技の余韻が冷めないうちに、演技が始まってしまった感じ。最初の3Lzで着氷が乱れた。ちょっとかわいそうだった。それが観客の同情を誘ったのか、途中から大きな手拍子と拍手。点数は伸び悩んでこの時点で3位。(後で調べたら、3Tの回転不足が響いたようだ)
○ 安藤美姫:
最終滑走の安藤が滑る時点で、優勝は浅田・安藤に絞られていた。安藤の演技前、頭の中で計算してみた。安藤が浅田の点を越えるには、フリーで126.5くらいが必要。安藤のフリーのPBは、確か今季GPアメリカ大会の125点くらい(実際は125.85)。つまりPB更新が必要になるが、地元の世界選手権であることを考慮すると、GPアメリカ大会と同様に、4回転抜きでもノーミスでまとめれば、僅差で安藤が勝つ可能性があると思った。
演技は、
ただただ一つ一つ丁寧に要素をこなしているという印象。やはり4回転は跳ばなかった。終盤の、SPのコピーのようなモロゾフステップから最後のスピンまで、とにかく無難で丁寧だった。ノーミスだったが、やや物足りなさが残った。でも今日はまだ一度しかスタオベしてなかったので、もう一度くらい…と思い、スタオベした。私の周囲でも半分くらいの人がスタオベしていた。得点が出るまで、これほどドキドキしながら待ったのは初めてだった。結果は、フリー127.11、合計195.09点で、僅差で1位。
しかし、地元の世界選手権で日本人が優勝したという出来事の大きさの割には、客席はあまり盛り上がっていなくて、少し気の毒だった。例えば、昨季のGPファイナルで浅田真央が優勝したときの代々木第一体育館は、もっと騒然としていた。思えば、世界選手権・五輪・GPファイナルのような大きな大会では、フリーで一番いい演技をして観客を感動させた人が金メダルをとるパターンが多いので、この日、浅田真央が優勝できなかったことに違和感を覚えた観客が多かったのかもしれない。私の周囲でも、安藤の得点が出る前は「真央ちゃんだよね」という声があがっていた。
■ まとめ:
○全体総括:
世界選手権の生観戦は初めてだったが、世界のトップ選手をこれだけ大勢、一度に見られるというのは本当に贅沢なことだと実感。初めて生で見る選手も多く、時間が過ぎるのがもったいないと思うほどだった。苦労してチケットを入手した甲斐があった。日本人選手は3人ともいい演技を見せてくれて、ファンとして感謝したい。
○安藤美姫:
優勝おめでとう。出場選手中、事実上唯一SP・FSともノーミスだった。ビールマンスピンこそできなかったものの、肩の故障の影響はほとんどなく、むしろ良い意味で力が抜けてプラスに働いたのかも。過去の世界選手権・GPファイナル・五輪等の優勝選手と比べても高いスコアで、
文句なしの優勝と言える。来季は、世界チャンピオンにふさわしい成績を残してほしい。今季のマイズナーは今ひとつだったので…。
○浅田真央:
よく頑張ったが、ミスが多かったのが痛かった。1位とはわずか0.64差。今の採点システムでは1点未満の差は
誤差の範囲と言えるので、実質的には優勝相当なのだが。でもやはり、今大会での優勝をずっと目標にしていたので、それを逃したのは悔しかったはず。2位が決まった時、悔しくて号泣したのも納得できる。初出場の世界選手権での銀メダルは、他の選手なら快挙だが、浅田真央に限っては違う。次回に期待したい。でも今季終了時点で世界ランキング1位になったのは収穫だと思う。
○その他選手:
キム・ヨナは、体調が万全ならどこまで行くのか分からない。特にフリーで、SPと同様の調子だったら何点とれたのかと、改めて脅威に感じた。
マイズナーは、上手いのだが、他のトップクラスの選手と比べると少し見劣りする印象。3Aを跳ばない限り、再び世界の頂点に立つのは厳しいかも。
中野は、もっと評価されるべき。このハイレベルな試合で5位は素晴らしい。日本人女子で、世界選手権2年連続5位以上というのは、伊藤みどり、佐藤有香、村主章枝くらいしかいなかったのでは?
■ おまけ:
(1) フリーの公式練習の後、会場付近を歩いてたら、正面玄関近くでキム・ヨナを目撃。3メートルくらいまで近寄って見た(ミーハー)。テレビで見るよりはるかに子供っぽく、華奢で、小学生かと思うほど。
(2) その近くで、浅田真央の母親を発見。3〜4人(誰か分からん)と談笑していた様子。前日SP5位だったことは伺わせない明るい表情をされていた。
(3) チケット争奪戦が激しかったので外国人の客が少ないかもと懸念していたが、
最前列に外国人の客が多くいたのは嬉しかった。特にカナダの観客が賑やかだった。テレビで見覚えのあるおばちゃんもいた。
(4) 会場前で「チケット買いたい」と書いた紙を持って立っている人を多数見かけた。ダフ屋の出る幕も無いほどのプラチナチケットだったようだ。
(5) 会場内は暑かった。特にフリーの日は上着を脱いで観戦した。
(6) 「アイススペース」が会場内に出店していた。社長の坂田清治さんも店頭でこまごまとお仕事されていた。
(7) 「沈黙は金・塩原恒夫」と書かれた横断幕があった。でもフジテレビの中継では画像処理されてたのか、映ってなかった。
(8) 放送席には、荒川静香、井上真央、TOKIOなどがいたが、近くからは見えにくい構造になってたので、双眼鏡で遠くから見て確認する人がいた程度。
(9)
次回、2008年の世界選手権は、スウェーデン・ヨーテボリ(イエテボリ)で開催予定。会場でも観戦案内のビラが配られてた。見てたら行きたくなってきた。
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